フランス人来る

 今日は不動産の話ではありません。先週、私が通っている空手道場にフランス人が来ていました。背丈は私より少し低いぐらいですが、 体格はがっちりしていて、突きも蹴りも重みがあります。先生の指導を仰ぐだけの目的で来日し、2週間ほど滞在予定とか。私はこの人とは初対面ですが、数年前にも来たことがあるようです。先生に言われて稽古の相手をしました。英語ができないようなので会話になりません。それでも稽古は一所懸命にしていました。いつもならすぐに打ち解けて稽古の後は食事に誘うところですが、この日はそんな気になれませんでした。それはある友人のことを思い出し、早く家に帰りたくなったのです。約20年前、初めて来日し、それから付き合いの始まったエアフランスでキャビンアテンダントをしていた友人がいました。2年に一度のペースで1ヶ月ほど休暇をとって、日本へ稽古に来ていました。彼とは年齢が近かったこともあり、英語も話せましたのですぐに親しくなり、来日したときは私の家に泊まってもらっていました。その折フランス語を教えてもらい、片言ながらフランス語で会話もできるようになり、私も彼の自宅へ尋ねていったことがあります。付き合いは10年ほど続いていました。しかし不幸にも彼はパリで起きた地下鉄爆破テロに遭遇し、そのときの爆音で耳の三半規管を痛め、平衡感覚を失い空手ができなくなったのです。非常に空手道を愛していましたから、彼の心痛は計り知れません。それ以来、日本へは長らく来ていなかったのですが、3年ほど前、観光で京都に来たと知らせがあり、再会しました。でもまだ本調子ではないことがすぐにわかりました。交わす言葉も少なく、数時間の間に近況を報告し合いましたが、互いにぎこちなさの残る再会でした。それ以来彼とは会っていません。今どうしているかなと、その日きたフランス人を見て切なくなったのです。一生涯友達として付き合いをしようと約束していたのですが、再会したとき、しっくりいかなくて互いの間に溝ができてしまったようにも感じました。今もきっとつらい思いをしているかもと思うと切なくなります。テロが彼の人生を狂わせてしまったのです。私の大事な友人がそんなことに巻き込まれるとは思いもしなかったのですが、現実に起こってしまった。今では連絡先もわからなくなってしまっていますが、でもまたいつか会おうと思っています。今日はお彼岸の中日、ご先祖様への感謝の祈りだけでなく、ニューヨークの9.11のようなテロの悲劇がどこの国にも起こらないことを祈りたいと思います。 和合 実